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「クロード~、こっちおいで~」
おいでおいでと手招かれて困惑しながらにーさま達のところに行く。
クロードはさり気なさを装って最後の確認をしてみる。
「……あの、……ここのぼるんですか?」
「そうだけど?」
ゼロスが当然のように答えた。
やっぱりそうなのだ。今から絶壁の崖をよじ登るのだ。
クロードは内心動揺したが、そんな様子にゼロスが「あ、そうだった」と気付く。
ゼロスがクロードに背中を向けてしゃがんだ。
「ほらクロード、おんぶしてあげる。僕が連れてってあげるからね」
「にーさまっ……!」
クロードはパッと顔を輝かせた。
ゼロスがおんぶしてくれるなら大丈夫。クロードはさっそくおんぶしてもらおうとしたが。
「ん? どうしたの?」
ゼロスが不思議そうに振り返った。
いつまで待ってもクロードがおぶさらないのだ。
そう、クロードは唇を噛んでぴたりっと立ち止まっていた。
「……やっぱりいいです。わたしだってひとりでのぼれます」
「そおなの?」
「そうなんですっ」
クロードはぎゅっと拳を握って答えた。
クロードだってもちろん無謀だと分かっている。でも二人のにーさまはクロードくらいの頃、すでにこんな崖は一人で登っていたのだ。クロードだって頑張ればできるはず。強気に挑戦したい。
気合いを入れるクロードにゼロスは苦笑し、イスラはやれやれと腕を組む。
「いいだろう、俺が一番下にいる。クロードは俺の前にいろ」
イスラがそう言った。
イスラとゼロスから見てもクロードの崖登りは危なかっしいが、一人で登りたいというクロードの前向きな気持ちは尊重してやりたい。それに一番下にイスラがいれば万が一の時に対処できるのだ。
「決まりだね。クロード、僕の後ろについといで」
「はいっ!」
クロードは大きな声で返事をした。にーさま達が応援してくれている気がして嬉しかったのだ。
さっそくゼロスが登りだし、クロードがその後に続く。
上にいるゼロスの動きを参考にしながらクロードも一生懸命よじ登った。
クロードはまだ未覚醒だが、神格の存在なので生まれながらの身体能力は五歳児の一般的な平均を超えているのだ。にーさま達と比べると劣ってしまうが、普通の魔族に比べると優秀なのである。
「クロード、じょうずじょうず。あ、その右手の岩は脆いから気を付けて」
「はい。こっち?」
「そうそう。そっちの方がいい」
時々ゼロスが振り返って指導してくれる。
そのおかげかクロードはぐんぐん登ることができる。最初は不安で緊張していたが、気が付けば崖の中腹まで来ていた。
地面は遥か下。もしここから転落すればただでは済まないだろう。神格のクロードは頑丈だが、それでも受け身に失敗すればただではすまない高さだ。
でも今、景色を眺める余裕もでてきて、眼下に広がる緑の景色に大きく深呼吸したい気分だ。
ピヨピヨ。ふと小鳥の鳴き声が聞こえてきた。
見ると絶壁の隙間に鳥の巣があったのだ。巣では雛たちがピヨピヨ鳴いている。
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