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「……にーさま、ごめんなさい。ありがとう」
クロードはシャツをぎゅっと握って言った。
イスラが見下ろし、視線を感じてクロードは肩を竦めて縮こまってしまう。
そんなクロードにイスラがため息をついた。
「……もういい、次からは気を付けろ」
「はい……」
クロードがおずおずと顔をあげた。
イスラと目が合うと小さな唇を噛みしめてしまう。でもイスラの手がクロードの頭にぽんっと置かれた。
「崖登りまあまあだったぞ。途中までだったけどな」
「っ、にーさま! にーさまが『まあまあ』っていいました!」
クロードの沈んでいた表情が明るくなった。
イスラの『まあまあ』は褒めてくれる時のもの。クロードは弟だから分かるのだ。
ゼロスも笑顔で褒めてくれる。
「クロード、頑張って良かったね」
「はいっ」
まだにーさま達のように登れないのは悔しいが、やっぱりこうして褒められると嬉しくなるのだ。
笑顔になったクロードにゼロスは明るく笑う。
「兄上に怒られて泣いちゃいそうだった?」
「ないてません!」
「そお?」
「そうですっ!」
「分かった分かった。それじゃ行こうか」
こうして三人は崖の上に広がっていた森を進む。
道なき道にクロードは何度も躓きそうになったが踏ん張った。こんな所で一人で転ぶのはなんだか恥ずかしいのだ。
「あっ、あったあった。兄上、あそこに見える洞窟だよ」
そう言ってゼロスが鬱蒼と生い茂る木々を指差す。
クロードにはなにも見えなかったが、もう少し近づくとぽっかり開いた洞窟が見えてきた。
「まだ中には入ってないんだけど、前回玉座に座りに来た時に見つけたんだ」
「それ以前はなかったんだな?」
「なかった」
ゼロスの説明を聞きながら三兄弟は近づいていく。
だが、近づくにつれてゼロスが険しい顔つきになっていく。
「クロード」
「はい」
「僕か兄上から絶対に離れないでね?」
「は、はいっ……」
クロードは緊張感を覚えた。
ゼロスは洞窟を見据えていたのだ。
洞窟につくとゼロスは洞窟の地面を見て「やっぱり……」と厳しい顔になった。
クロードもそこを見て「あっ」と声をあげる。そこには焚き火の跡があったのだ。もちろん三兄弟には身に覚えのないものである。……ということは。
「に、にーさまっ、これってダメなんじゃないですか!?」
クロードは焦って声をあげた。
だってこれは冥界に侵入者がいるということなのだ。
創世期の冥界は特別な許可がなければ入ることを許されない。
「正解、これダメなやつだよ。密猟者かな? 創世期は希少な動植物だらけだから」
この焚き火から分かることは、冥界に密猟者が侵入しているということ。世界を隔てる強力な結界を突破して侵入するくらいなのだから、密猟者はそれなりの魔力を持っていると考えてもいいだろう。
ゼロスは焚き火の跡を調べだす。
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