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「クロード、気を付けてね! すぐそこの洞窟前の川を使うんだよー!」
洞窟にいるゼロスが大声で呼びかけてくれながら、大きく手を振っている。
ゼロスはクロードを視界に入れながら夕食の調理をしていた。一人で川に向かうクロードが心配なのだ。
クロードも「はい!」とお返事して手を振り返す。こうやって『わたしはだいじょうぶです』と伝えると、ゼロスは安心したような笑顔になった。
その笑顔にクロードは照れ臭い気持ちになる。大切に思われていることがとっても伝わってくるのだ。
これはゼロスにーさまだけではない。イスラにーさまもブレイラもちちうえも、みんなクロードが大好きで大切だ。クロードも家族がとっても大好きだ。厳しいこともあるけれど優しいのである。だから大好き。
大好きだけど、大好きだけど…………。思いだすのはさっきの焚き火のこと。
焚き火の炎が小さくなってしまってクロードは慌ててフーフーしたけれど、ゼロスがあっという間に元に戻してしまった。
クロードは焚き火の番をにーさま達から任された時、とても嬉しかった。密猟者退治に協力してくれる? と誘ってもらえて、焚き火の番を任されて、にーさま達から必要とされている気がしてとても嬉しかった。
でも本当は焚き火の番なんて最初からいてもいなくても良かった。そう気付いてしまったのだ。
「…………」
クロードの視線が無意識に下がってしまう。
もやもやした嫌な感覚を覚えてしまう。それはクロードにまとわりついて、どんどん息苦しくなっていく。
もやもやにズブズブ沈んでいきそうになって、慌てて首を横に振った。考えちゃダメだと思ったのだ。
クロードは川辺までくると、しゃがんで川の水でバシャバシャ顔を洗った。
ハンカチで顔を拭く。おでこもふきふきして……。
「!? し、しまったっ……」
クロードはハッとした。
前髪が水に濡れておでこに張りついているのだ。
このままじゃダメだ。ハンカチで前髪を拭いてなんとか元に戻そうとする。
「もどったかな?」
なでなでして確認だ。大丈夫、前髪はまっすぐ下りて元通り。
ほっとひと安心していると斥候を終えたイスラが戻ってきた。川辺のクロードに気付いて眉を上げる。
「クロード、なにしてるんだ?」
「イスラにーさま、おかえりなさい。かおあらってました」
「そうか、戻るぞ」
「はいっ」
クロードも立ち上がってイスラについて行く。
でも足元の木の根に気付かず躓いてしまう。
「わあっ」
「おっと、危ないだろ。気を付けろ」
「は、はい……」
寸前のところでシャツを掴まれた。
転ばなかったけれど、まるで子猫のようにあしらわれた気分だ。恥ずかしい。
クロードは礼を言ってまた歩き出す。今度は転ばないように足元に気を付けながら。
こうして二人はゼロスがいる洞窟に戻ったのだった。
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