同窓界

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 僕が居酒屋の個室に入ると、 「おう、久しぶりだな」  友人の小出が片手を上げた。 「久しぶり、こいさんも元気だった?」  小出こと、こいさんの向かいに腰を下ろす。 「ボチボチってとこだ。ツマミは適当に頼んでおいたぞ」  目の前のテーブルに並ぶ料理を見て、関心しながら頷いた。  赤身や白身が彩る刺身の盛り合わせに、香ばしい湯気が漂う唐揚げ。さりげないたこわさの小鉢。そしてふんわりとした卵焼き。  どれも僕の好物だった。 「相変わらずのマメさに頭が下がるよ」  こいさんは苦笑した。 「そうやっておだてて、いっつも幹事役は俺だもんなぁ。まぁ良い、それより」  こいさんは眉根を寄せる。 「前田のやつ、遅刻だってよ」  僕は吹き出した。 「また? 前田って本当に遅刻魔だよね」 「それな! 自分は『絶対お前ら遅れるなよ』って俺やぺいに言うくせにな」  ぺい、は僕のあだ名だ。僕の下の名前、順平を省略されて、そう呼ばれていた。 「あいつどこで油売ってんだ?」  こいさんが腕を組む。僕はテーブルの上で頬杖をつきながら「だね」と、同意する。 「マイペースな前田のことだからなぁ……今頃僕達のことなんか忘れてジョギングなんかしてたりして」 「悪い! ジョギングしてたら遅れたわ!」  突然個室に響き渡った声に、僕は首を後ろに捻った。見ると肩を上下させる前田が立っていた。 「前田遅すぎ」  こいさんが口を尖らせる。前田は狼狽えた。 「ち、ちゃうねん。俺の足やったら余裕で間に合う思てやな……」 「そういう問題じゃねぇ! お前、予定組むの下手かよ!」  こいさんと前田の漫才のような掛け合いに、僕は堪えきれずに腹を抱えた。 「ぺい、それはちょっとウケ過ぎやろ」 「いやぁ、だって面白いんだもん」  僕は呼吸を整えたあと、隣の座布団を叩く。 「とりあえず前田も座りなよ。三人揃ったことだし、そろそろ、ね?」  促されてこいさんは、渋々ビールが注がれたグラスを掲げた。 「まったくしょうがねぇなぁ……それじゃぁ、今日という特別な一日に」  一呼吸置いてから、こいさんは声を張り上げる。 「乾杯!」  こいさんの掛け声とともに、僕達はグラスを合わせた。続いて一気にビールを飲み干していく。      
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