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神乃には行く当てなどない。とりあえず冷静になれと、スーツケースを引き、近くのファミレスに入って心を落ち着かせようとする。
今日は人生最悪の日だ——。
神乃は今日明日と大阪出張のはずだった。だが、明日の仕事の予定が変更となり、急遽大阪での宿泊をキャンセルして19時新大阪発の新幹線で東京に戻った。
そして仁井と暮らすマンションに帰る。ドアを開けると玄関に見知らぬadidasのスタンスミスがあった。仁井の友達でも来てるのかなと気にもしなかった。
「仁井、ただいまー。仕事ドタキャンされてさぁ——」
1LDK。ダイニングとひと繋がりのリビングに仁井の姿がなかったため、仁井の姿を探してベッドルームのドアを開けた。
そこには信じられない光景があった。仁井と藍羅はベッドの上で全裸。行為の真っ最中だった。
二人は当然神乃に気がついた。
浮気現場を見られて「浮気してごめん」と慌てふためくのかとばかり思っていた。
「えー、誰ー?」
仁井に組み敷かれている藍羅が気怠そうに言った。
「ごめん、俺の家政婦だ」
仁井からの信じられない言葉。
呆然と立ち尽くす神乃の手はワナワナと震え出した。これは怒りだろうか。
涙が溢れる。恋人に裏切られた悲しみの涙……? いや、こんなにも非情な人間を恋人だと思い込んでいた自分に対する同情の涙かもしれない。
そこからの修羅場。ベッドにいた藍羅は悪びれた様子もなく渋々服を着て、仁井に「今日は帰れ」と言われ去っていった。仁井は「バレたらしょうがねぇな」と言い、「俺、実はお前より藍羅が好きなんだよ。でも神乃の事も嫌いじゃない。お前は俺の二番目の恋人って事でもいいか?」とまたもや信じられない言葉を口にした。
何が二番だよ! 何が家政婦だ! バカにしやがって!
仁井は神乃のことをそんな風にしか思っていなかったのだ。その事に今まで気が付かなかった自分にも呆れる。
俺、バカみたいだ……。
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