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これからどうする? ビジネスホテルやウィークリーマンションなどに行き、その間に新たな部屋探しをするしかないかなと、これからの自分の行く末を考えていた。
そんな時だった。
「神乃」
名前を呼ばれ、顔を上げるとそこに立っていたのは富永だった。
富永は神乃の学生時代の友人だ。社会人になってからは久しぶりに会う。
「富永?! どうして?!」
神乃は席から立ち上がるほど驚いた。深夜のファミレス、こんなところに偶然知り合いが現れる事などあり得ない。
「お前こそどうした? スーツケースなんて持って。仁井と喧嘩でもしたのか?」
富永は遠慮なしに神乃の向かいの席に座った。
「喧嘩なんてもんじゃない……」
富永は、仁井と神乃は男同士の恋人だという関係性を知っている。
三年前に神乃は富永から言い寄られた事があったため「俺、好きな人いるから」と富永の告白を断る理由として、富永にだけは仁井と恋人同士なのだと事実を話したのだ。
隠しても、取り繕っても仕方のない事だ。神乃は先程自分の身に降りかかった災難を富永に話した。
神乃の話を聞きながら、富永は「あり得ねえ」「ふざけてんな!」と一緒になって怒ってくれた。
「神乃! お前、行く当てあるのか?!」
神乃が黙っていると、それを返事と捉えたようだった。
「神乃。俺の家に来い。次の住むところが決まるまでいつまでもいてくれていい」
富永、良いやつだな。
「ありがとう、富永……。とりあえずお前の言葉に甘えてもいいか?」
正直すごく助かる。今日の宿もないレベルだったから。
「当たり前だろ! 俺、仁井をぜってぇ許せねぇ。あいつに仕返ししてやろうぜ」
富永の言葉に呆れてつい笑ってしまう。当事者の神乃よりも怒ってる。
「ありがとう、富永。お前、優しいな……」
なんだかわからないが、ここで富永に会えて良かった。話を聞いてくれて、家まで提供してくれて、更には「仕返ししてやる」と我が事のように怒ってくれている。
「俺は優しくなんかない。俺が考えてるのはお前をこんな目に遭わせた仁井をズタズタにしてやることだからな! 神乃! 俺に協力しろ。あいつに思い知らせてやるんだよ。絶対に後悔させてやるっ」
友人の為にここまで親身になってくれるなんて富永は本当にアツイ男だ。
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