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「えっ……ここ、お前んち?!」
連れてこられたのは、都内一等地にあるタワーマンションだった。入り口からしてラグジュアリー感満載で、神乃は完全に気後れしている。
「俺、起業したんだ。こう見えて社長なんだぜ?」
「えっ、社長?!」
「そ。そんなに大きい会社じゃないけどな」
いやいやこんなマンションに住めるくらいの地位にはいるってことじゃないか。
富永は二重に張り巡らされたオートロックを解除し、常駐しているであろうコンシェルジュに会釈をして挨拶を交わしている。
エレベーターで45階に着き、到着した部屋は広いリビングダイニングに、いくつもの部屋がある。
これはファミリータイプの広さだ。一人暮らしにしては広すぎる。
「富永は今、家族はいないのか? 随分広いな……」
心配になって富永に訊ねる。富永はいいと言ってくれても他に誰か富永と一緒に暮らしているという可能性を考えなかった。つい勢いで富永の言葉に甘えてしまった。
「一人暮らしだよ。余ってる部屋があるから、神乃はそこを使ってくれ」
神乃が通された部屋は10畳ほどの広さがあり、デスクやベッド、最低限の家具は既に設えてある。
「これは……」
「あ、ああ。ゲストルームだよ。でもまったく使ってない。この部屋にあるものは神乃のものだと思って使ってくれて構わないよ」
「あ、ありがとう……」
なんだか申し訳ない気持ちになる。ベッドも布団もふっかふかで気持ちがよさそうだし、置いてあるものすべてが新品だ。
「好きなだけうちにいてくれていい。これ、合鍵」
富永にカードキーを手渡された。
「いいのか?」
「もちろん。俺は忙しくて家をあけることも多いから、出入りするのに鍵がないと困るだろ?」
「すまないな……」
富永にすごく世話になっている。これでは申し訳ない。
「なぁ、富永。お前、社長で仕事が忙しいんだろ?」
「え? まぁ……」
「ここに住まわせてもらう代わりに俺が家事をするってのはどうだ? 俺、家事は苦手じゃないし、結構好きな方だから」
仁井と暮らしていたときも、家事全般は神乃が引き受けていた。富永の負担を減らすために、住まわせてもらう恩返しのためにも何かしたかった。
「神乃だって仕事があるだろ?」
「大丈夫だ。仁井と暮らしてたときもやってきたんだから」
「神乃がそこまで言うなら、お願いしてもいいか?」
「うん。任せろ」
「わかった。正直助かるよ。無理のない範囲でいいから」
こうして突然、富永との同居生活が始まった。
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