1049人が本棚に入れています
本棚に追加
「神乃。寒くないか?」
寝る前に神乃がベランダからの東京の夜景を眺めているときに、背後から富永がやってきて神乃の肩にふわっとブランケットをかけてくれた。
一瞬、富永に抱きつかれるのかと思ってドキッとしたが、富永はブランケットをかけただけで、そのあと神乃の隣に並んだ。
神乃は富永の横顔を見上げる。富永は背も高く身体つきもいい。それに本当に綺麗な輪郭をしているな、と惚れ惚れした。
富永は昔からかっこいい。
富永とは中高一貫校で知り合ったから、中学校以来の仲だ。
神乃たちの通っていた学校は、女子もいたが基本的に授業も部活も別々といった決まりのあるところだった。
それなのに富永は異常にモテた。無理もない。
芸能人顔負けの整った顔面をしているのに、それを鼻にかけることもなく、いつも明るくて優しい。成績は常にトップで、テニス部部長。
富永が生徒会会長に立候補すると、富永と一緒に生徒会をやりたいと副会長や書記などの立候補者が殺到し、学校で騒ぎになったくらいだ。
そんな富永には友人もたくさんいた。その中のひとりが神乃だ。
引っ込み思案で地味な神乃にも富永はいつも声をかけてくれて、友人の輪に入れてくれた。
修学旅行の部屋決めのときも、神乃が「俺と同じ部屋になってくれる人が見つからない」と愚痴をこぼしたら、富永は引くて数多のくせに「それなら俺と組もう。神乃と同室がいい」と言ってくれ、あの富永が神乃を選ぶなんてと周囲が驚いていた。
「神乃、俺の恋人になってくれ」
「はぁっ?!」
おい、いきなりなんだ?!
「神乃。俺の恋人のフリをして欲しい。俺は仁井が許せない。あいつに仕返ししてやろうぜ!」
「なんだフリか……」
びっくりするな。勘違いするからやめて欲しい。
「わかった。俺もやりたい」
仕返しには神乃も大賛成だ。浮気されて、尽くしてきたのに家政婦呼ばわりされて、捨てられて、それでも泣き寝入りしなきゃいけないと思っていたから。
「でもどうするんだ? 富永」
「神乃は何もしなくていい。ただ俺の恋人のフリをして、ついてきてくれればいい」
富永はニヤリと笑った。
最初のコメントを投稿しよう!