7.明るみになる事実

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 神乃は部屋の中に戻り鍵をかけた。  富永の様子を伺うと、眠りに落ちているみたいだ。  そばに近寄って富永を眺めているうちに、もっと近づきたくなって、そっと富永と同じ布団の中に潜り込む。  ——富永。ごめん。朝起きたとき、俺じゃなくて藍羅がそばにいたら、きっと富永はびっくりするよな。  富永を驚かせることになり、申し訳ないと思うが、わけを話せば富永ならきっと理解してくれるのではないだろうか。  神乃の思惑としては、このまま夜をここで過ごし、朝になったら藍羅と入れ替わる。  目覚めたあと藍羅の姿を見て驚いた富永は、きっと「恋人交換なんて認めない!」と、神乃とヒロくんに会おうとするだろうから、そこで富永にネタばらしだ。  ヒロくんは「恋人交換だなんて、人をバカにしてるのか」と藍羅を責めるに違いない。  ヒロくんには既に藍羅の本性を暴露してあるし、藍羅が言い逃れできないよう、恋人交換の茶番劇にのってくれるように話を持ちかけてある。  そうすれば神乃としても、『富永へ金を返す』という藍羅との約束の交換条件を満たすことができる。神乃は藍羅にできる限りの協力をした立場だ。なにを責められよう。  女と女の交換ならまだしも、男と女の恋人交換には無理がある。そもそも身体の構造が違うのだからそれを酔っていたとはいえ、間違って抱くものか?!  聞けばヒロくんは仕事中心の真面目な性格も相まって三十六歳独身、藍羅とは結婚を前提として付き合い始めたんだそうだ。さぞかしぶつける怒りは大きかろう。  藍羅はヒロくんに捨てられる。  富永も、藍羅になにを言われても藍羅を受け入れることはないはずだ。富永は責任を取らなきゃいけないことは何もしていないし、きっと藍羅よりも神乃を選んでくれると信じている。  恋人交換なんてできもしないことを考えついた藍羅は、結局お金を返すことになり、恋人には振られ、富永には受け入れてもらえず、ただ自滅するだけだ。  ——こんな富永を騙すような真似をして、俺は富永に嫌われたりしないかな。  お金を取り戻したかったと理由を説明して、神乃はもともと恋人交換など(はな)からするつもりはなかったんだと富永に訴えれば、許してもらえるんじゃないだろうか。  富永は「もうこんなバカなことは二度とするなよ」と言ってきっと抱き締めてくれるはず。
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