8.互いの事情

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8.互いの事情

 ホテルの部屋に富永とふたりきり。  富永はベッドの端に神乃を座らせ、富永自身は神乃の目の前に立ち、こちらを見下ろしている。 「話すのが遅くなってごめん。でも富永はもうほとんど見抜いてたな。さすが富永だ」  神乃が説明する必要もないくらいに、富永の推測は完璧だった。 「恋人交換なんて言い出したのは藍羅で、俺はそれにのったフリをして、藍羅を逆に騙してやろうと考えたんだ」 「なんで? 俺にはそこがわからない。そんなことして神乃に得はないだろ? 俺を捨てたいならはっきり俺に嫌いだと言ってくれればいい」 「そうじゃない!」  神乃は思わず目の前にある富永の手を掴んだ。  富永へのこの気持ちだけは、疑われたくない。 「俺は藍羅が不相応に手に入れた金を取り戻したかったから。それとあいつが表だけはいい顔して、裏ではどれだけ悪い奴なのか知ってるからそれを今の藍羅の彼氏に暴露してやろうと思って……」 「へぇ。神乃らしくない」  自分でもそう思う。でもどうしても嫌だった。自分のせいで富永が金銭的な負担を受けたことが。 「富永は、俺がまだ仁井と付き合ってる頃、金を払って仁井と藍羅を別れさせようとしたんだろ? それって俺のため?」 「え? あぁ……あのときは仁井があんな酷い奴だとは知らなかったから。神乃にとってはそれが一番幸せなのかと……」 「やっぱり俺のためだ。じゃあ、藍羅から『かみのん動画』とかいう、俺の動画の話をされて、金を払ったのも俺のため?」 「なっ、なんでそんなことまで……!」  富永の動揺っぷりから、富永は神乃に知られないうちに解決することを目論んだのだろう。  いかがわしい動画が存在していたことを知ったら神乃が傷つくと思いやって。
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