1.仕返し

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 店を出たあと、神乃と富永の二人はその場に留まる。  すると思惑通り「神乃っ! 待ってくれ!」と慌てて仁井が店から飛び出してきた。その姿を見て仁井の方を振り返る。 「お前は知らないと思うけど、あれから俺は藍羅と別れたんだよっ」  藍羅と別れた……? その事実は神乃は知らなかった。 「浮気して悪かった! もうしない! 謝るから戻ってきてくれ!」  仁井は必死な顔で訴えてきた。 「お前がいなくなってから家もめちゃくちゃでさ……。家事って地味に大変なんだな。今まで全部やってくれてたお前に心から感謝するよ。これからは俺も手伝うから、また一緒に暮らそう。な? 神乃?」  今の神乃には富永というハイスペック新恋人がいると知って、よく寄りを戻そうなんて言えるなと呆れてしまう。  ……まぁ、本当は恋人のフリをしているだけなのだが。 「浮気して、散々俺の事をコケにした奴のことなんて信じられるわけないだろ」 「頼むよ。お前を大切にしなかった俺がバカだった。何度でも謝る。許してくれっ! 俺の元に帰ってきてくれ! 好きだっ神乃っ! 愛してるから……」  何を今さら。付き合ってる時には言いもしなかった「好き」だの「愛してる」だの叫んでるんだよ……。 「神乃ぉっ……俺を見殺しにしないでくれっ……」  みっともなく仁井は泣き出した。 「さっき言っただろ? 俺にはもう恋人が出来たんだ。お前と寄りを戻すなんてことはあり得ないんだよ。じゃあな!」  神乃は仁井に背をむけ、その場を立ち去った。
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