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久しぶりに味わった胸の高鳴りを抑えながら、多希は食いついてくる久住を宥めることに徹した。
「すみません。お見苦しいところを」
我に返った久住が、上等そうなビジネスバッグから一片の紙を取り出す。
難解なアルファベットと数字が並んでいて、多希は一瞬目を細める。
よくよく見れば、それは健康診断結果の通知書だった。
何の脈絡もなく、体験入会とは関係なさそうな書類に突っ込みを入れようとしたところ、先に久住が口を開いた。
「これは先月の健康診断結果です」
「は、はあ」
六年ほど、料理教室の講師をやって来たが、こんなものを見せられたのは初めてだ。
円滑なコミュニケーションも、失礼のないリアクションもできず、多希は診断結果に顔を落とす。
身長183、体重70、BMI20.90、腹囲72……と数字が並び、多希はその下へと目線をずらしていく。
──え。
多希の表情が固まる。
専門家ではないので、この数値が高かったり正常範囲から逸脱していたら、こういう病気ですよ、とはっきりとは分からないが。
血糖値、総コレステロールはともに300超え。
他も総じて数値の横にもれなくHなりLなりのアルファベットがついている。
これは基準値よりも高い、または低いということを示しているのだろう。
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