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講義を行う部屋へ久住を案内する途中で、様子を見にきたらしい三好とすれ違う。
「新しい子どう?」というジェスチャーに構う余裕もなく、多希はエプロンの件を話した。三好はあっけらかんと笑う。
「あー、最近借りる人いなくてなくしちゃったかもねぇ。今度買っておくよ」
「今度って……」
「多希くん、自分のロッカーに洗い立ての予備があったんじゃない? それを貸してあげるのは?」
「あります……けれど。久住様はお客様ですから。俺はよくても、久住様が……」
言い淀む多希と能天気な三好の会話に、久住は無表情で割り込んでくる。
「俺はそれでも大丈夫です。由衣濱さんがよければ、ですけど」
三好のせいで気を遣わせてしまっていないかと、心配になる。
ぎこちない空気になってしまったのを、三好が明るく笑って吹き飛ばした。
「それじゃあ、両思いってことで。よかったよかった。多希くん後はよろしくね」
ぽん、と多希の肩を叩くと、三好は行ってしまう。
たちの悪い冗談に、多希は小さな溜め息を溢す。
恐る恐る隣にいる久住を見上げると、特に気にした様子もなく澄ました顔で見つめ返された。
「すみません。変な人で。失礼だったでしょう」
「仕事で慣れてるので特に。講師の方ですか?」
「いいえ。社長です」
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