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両思いという言葉がまだ耳に残っていて、久住の顔を見ていたら勘違いしそうになる。
多希は自分のロッカーから予備に置いてあったエプロンを取ってくる。
女性陣はフリルや花柄をあしらったデザインが多く、華やかだが、多希の持っているものはどれもシンプルだ。
「こちらで大丈夫でしょうか」
多希が差し出したのは、ダークグリーンのエプロンだった。
多希の身長は一七五センチなので、健康診断書に書いてあった久住との身長差は八センチ。
それほど差はないように思えるのだが、多希は筋肉の付き方が薄く、服も細見のシルエットのものでないと不格好で似合わないことが多い。
対して久住の体型は、多希よりもがっちりしているのに、程よくバランスが取れている。
──だから、ダメだって。
生徒を邪な目で見るのは。心の声で、自身を叱咤する。
「ありがとうございます。……あの、これ。着方は合ってますか?」
「あ……ああ、大丈夫ですよ。あ、後ろは片結びじゃなくて、蝶々結びにしてくださいね」
久住は手を後ろに回して、多希の言う通りに背中でエプロン紐を結ぼうとしている。
しかし、絶望的なまでに不器用で、見ているこっちがもどかしくなる。
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