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「結びますよ」
伸ばした指先と、遅れて引いた久住の指が触れ合う。
多希は平常心を保ちつつ、久住の腰辺りに蝶々結びをつくった。
講義の部屋はグループごとに四つに分かれており、五、六人ほどが参加する。
準備を一通り終えた多希は、今日の生徒達を出迎えた。
「本日は体験講義の方が一人いらっしゃいます。よろしくお願いしますね」
続けて、久住が自己紹介をする。
「皆様の足を引っ張らないよう頑張ります」
──真面目だなぁ。
多希はくすっと笑ってしまう。
多希の受け持つ生徒は全員が女性なので心配していたが、どうやら杞憂だったようだ。
多希が指示と説明をする時以外は皆、久住に話しかけていた。
女性陣は、多希や久住よりも十歳以上年が離れている。
表情が乏しく寡黙な男だが、質問には丁寧に答えているあたり、特に相性は悪くないのだろう。
今日の講義でつくるのは、鶏肉のミラノ風カツレツとアリオリのポテトサラダだ。
下準備を済ませ、肉を寝かせている間に、火を通していたじゃがいもを潰す。
待ち時間がなるべくできないよう、多希は効率よく作業を進められる手順を説明するのを心がけている。
講義中はほとんど初心者の久住に付きっきりだった。
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