Lesson.2

3/20
前へ
/118ページ
次へ
本当にこの人は。多希が窘めても三好はどこ吹く風だ。 休憩を終えた後、多希は講師用のロッカー室で身なりを整える。 木製の扉を開けるとき、いつも目に飛び込んでくるのは、久住からもらった小さな紙袋だ。 多希の貸したエプロンはあの後綺麗にクリーニングされて、可愛らしいクッキー缶とともに返ってきた。 何から何まで真面目で律儀な男だ。 そしていつも講義が始まる十五分前に、久住は教室にいる。 講師の多希よりも早いので何だか体裁が悪く、彼よりは先に入室しておこうと最近は心がけている。 しかし、他の生徒が入室してきても、久住は現れなかった。多希はもう一度予約表を確認する。 キャンセルにはなっておらず、やはり久住が来ることになっている。 多希は一度、久住が来ていないかフロントに電話で確認しようとすると。 「すみませんっ! 仕事で遅れて……今からでも大丈夫ですか!?」 「久住さんっ?」 大丈夫かと問いたいのはこちらのほうだ。 多希達のいる三階の教室まで走ってきたのだろう。 熊にでも追われてきたみたいに、久住は満身創痍だった。 「今から始めようとしたところなので大丈夫ですよ」 「……遅れたのは事実なので。すみません、罰金をお支払いします」 「い……いえ! そういう制度はありませんから!」
/118ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1568人が本棚に入れています
本棚に追加