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周りの生徒が、多希と久住のやり取りを見て、堪えきれないように笑い出す。
他の生徒が下準備に取りかかる間、久住には着替えてくるように言った。
「お待たせしました」
久住がぴしっと綺麗な姿勢で頭を下げると、再び小さく笑いが起こる。
講師陣だけでなく、久住と講義を共にした生徒達からも「真面目くん」という愛称が本人のいないところで飛び交っている。
「焦らないで大丈夫ですからね」
今日つくるのはアクアパッツァだ。
甘鯛の鱗と内臓を取り除く作業を、久住に付きっきりで教える。
指先に視線を寄せると、久住の指にはいくつも絆創膏が巻かれていることに気が付く。
巻き方はお世辞にも綺麗とは言えず、自分で処置したのだろうな、と多希は心の中で思う。
「久住さん。絆創膏、取れかけているので巻きましょうか」
「このくらい平気です」
「バイ菌が入ると危ないので。こちらへどうぞ」
久住は真面目ゆえに頑なだ。
一月関わって、久住の人となりを多希は理解しつつある。
少し強めの口調で言い含めると、久住を教室の端っこにある椅子へ座らせた。
救急箱から絆創膏を持ってくると、多希は久住の足元へ屈んだ。
「ゆ、由衣濱先生……そこまでされなくても」
「小さな傷でも悪化したら大変です」
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