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赤く滲んでいる傷もあるが、どれも深くはなさそうだ。
小学校に入る前から親と一緒に料理をしていた多希にとって、切り傷は日常茶飯事のことだった。
当然、手当てにも慣れている。
念のため、消毒をしてから傷のある部分を、絆創膏で保護する。
少し節張った細く綺麗な指は、接ぎ木をしたみたいに絆創膏だらけになった。
「ありがとうございます。由衣濱先生は料理だけでなくて、傷の手当てまでプロ級なんてすごいです」
「……普通ですよ。このくらい」
久住は手当てしたばかりの手をしばらく見つめていたが、多希が呼びかけるとすぐに我に返った。
講義中、また指に傷を増やさないかと、多希は内心はらはらしていた。
以前よりも包丁の扱い方は上手くなったものの、添える手の位置が危なっかしいときがある。
今日の講義が終わった後、何だかいつもより元気のない久住に声をかける。
「久住さん、お疲れさまです」
「……お疲れさまです」
やはり仕事の帰りが遅く、金曜日ということもあり、疲労がどっと溜まっているようだ。
久住は恐らく無意識なのだろうが、ことあるごとに溜め息が多希の耳に聞こえてくる。
「お仕事お忙しそうですね。自炊は順調ですか?」
「はい、まあ……毎日つくるようにはしています」
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