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義務感満載の答えが返ってきて、多希の心配はますます大きくなる。
多希自身がスランプに陥ったときの心境に似ている。
特に久住は仕事で料理をしているわけではないのだから、つくるのも食べるのも楽しんでもらわないといけない。
「あの、よかったら今晩、食べに行きませんか?」
「え?」
久住は面食らっている。
何か悩みなど聞ければ、と思ったのだが、冷静に考えてみれば、講師が生徒をどこかに誘うのはおかしなことだった。
多希は慌てて訂正する。
「す、すみません。お忙しいのに……忘れてください」
「行きます」
「……え?」
「ぜひ、行かせてください」
久住はぴしっと角度をつけて頭を下げる。
まだ行く店も決めていなかった多希は、静かで評判のよさそうなところを急いで検索した。
……────。
多希が提案したのは、以前同僚達が美味しいと言っていた、イタリアンバーだった。
実家が洋食屋だったので、上京するまでは同じ系統の店に行った記憶がほとんどない。
多希も久住もビールを頼み、前菜の盛り合わせとアヒージョ、パスタも追加した。
洋風の串焼きがメインの店らしく、多希は店員に勧められるがまま、盛り合わせもいただくことにした。
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