Lesson.2

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「美味しそうですね。由衣濱先生お勧めのお店」 「同僚に教えてもらったんです。久住さんも来るのは初めてなんですね」 外で飲むアルコールは久しぶりだった。 久住よりも早くグラスを空にしてしまうと、次は日替わりのクラフトビールを頼んだ。 「これ美味しい。トマトとベーコンの串焼き」 味付けは岩塩のみのシンプルなものだったが、加減がちょうどいい。 串焼きはそれぞれ同じ種類のものが二本ずつある。 美味しいですよ、と多希は同じものを勧めるつもりで、久住に食べかけの串を向けた。 久住は何故か、多希の行動を複雑そうな表情で見ている。 ──……あ、もしかして、トマト嫌いだった? 健康診断でオールEを取るくらいだから、かなりの偏食なのだろうか。 好き嫌いを聞いてから、オーダーしたほうがよかったかもしれない。 久住はグラスに残ったビールを飲み干してしまうと、多希の手首を掴んで引き寄せた。 「……えっ?」 多希が口をつけたところへ、久住は何の躊躇いもなく食らいつく。 突拍子もない久住の行動に、多希は手を引っ込めることも忘れてしまった。 汚れてしまった唇の端を、多希に触れていないほうの指で拭う仕草が、妙に艶めかしい。 真面目な男による突然の奇行に、多希の心臓はおかしな音を立てる。
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