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「うん。確かに美味しいです」
学生同士なら多分、普通のことかもしれない。
その頃から同性を好きになった多希には、友達同士の「普通」に溶け込むのが難しかったが。
いやいや、でも久住と多希は社会人同士で……。
気にし過ぎたら余計なことを勘繰られそうで、多希は自然な笑顔で取り繕う。
後からきたパスタもアヒージョも、久住が段取りよく取り分けてくれる。
──やっぱりいるんだろうな。恋人。
三好には反抗心でああ言ったが、気になっているのは図星だった。
もう何年も軽い付き合いだけで済ませてきた多希にとって、久住はキラキラした理想の人になっていた。
いつ聞こう。そもそも聞いてもいいものなのだろうか。
こういうことを気にするのは、久住のことを好きになってしまっているからだ。
お互いに会話を交わさない時間が過ぎ、多希はそれとなく話題をふる。
「久住さん、お家ではどんなものをつくるんですか?」
「まあ、いろいろです。由衣濱先生に見せられるようなものではないのですが」
「そんなことないでしょう。初回と比べて、かなり上達していると思いますよ」
「……本当ですか?」
肯定すると、久住がふっと微笑む。
ふわっと舞い上がりそうになる恋心を、多希はアルコールを流し込むことで押し留めた。
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