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あらかじめ下調べしておいた、無人のホテルへと入る。
先にシャワーを浴び、スマホをいじるのに夢中になっていると、大きな影が降ってきた。
多希の項に、水滴が落ちる。
「何してんの」
「別に。暇だったから」
「冷たくない?」
すぐ後にくすっとからかうような笑い声を漏らす。
手首を絡め取られ、頭上で一纏めにされる。
いきなり何をするんだと抗議しようとしたら、唇を塞がれた。
わざと音を立てて吸いつかれ、奥底に眠る情欲のスイッチが入る。
新しい恋人はつくらない。
男同士の恋愛に本気になって、もう痛い目は見たくない。
痛くないはずの失恋の古傷が、時折幻想のように浮かび上がっては、多希を苦しめる。
深入りはしたくないけれど、適度にセックスは後腐れなく楽しみたい。
身体の関係だけを求める多希にとって、マッチングアプリは便利なツールだった。
売りをしているわけではないが、今まで会った相手には見た目も相性も期待以上だったと、言われることが多い。
相手の気をよくする褒め言葉は、多希には面倒なだけだった。
もう一度したいほど嵌まる相手もいなかったし、次を期待されるのが重い。
リアルの付き合いのない相手は、ブロックボタン一つで関係が切れる。
心も痛まないから楽だ。
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