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バーで悪酔いした客から多希を守ったときだって。
『おっさん、若い子ばっか絡んでやるなよ。な、俺と一緒に飲もう』
菅原は正義感を振りかざすでもなく、その場の空気を悪くすることなく、多希を助けてくれたのだ。
いい意味でも悪い意味でも、人の甘いところに潜り込むのが得意な男だった。
その後も、アルバイトを続けられたのは、菅原のおかげで感謝もしている。
「すみません。常識的に考えて、菅原さんとよりを戻す気はないです。……奥さんと子供に、申し訳ないとは思わないんですか」
「別に思わないね。バレなきゃいいだけの話だ」
「だったら……俺には我慢しろって言うんですか。全て知ったうえで、愛人にでもなれと?」
多希は悔しさで、ぎりと奥歯を噛み締める。
別に菅原の貞操を正す気はないし、男と付き合いたいなら他を当たればいい。
「まず見た目が好みだし、飯は旨いし、セックスの相性もいい。多希以上に抱き心地のいい相手なんかいないよ。だからさ、もう一度俺と……」
菅原の手が、多希の首元に迫ってくる。嫌で逃げ出したい。
そう思うのに、ずっと起きられない夢の中にいるみたいに、身体は動いてはくれなかった。
「……先生っ。由衣濱先生!」
「久住、さ……」
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