Lesson.4

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Lesson.4

指先が、手のひらの全部が、抱き寄せたときの感触をずっと覚えている。 あれから眠って半日経って、まだ日も昇りきっていない朝に、久住は好きな人の体温を思い出しながら目覚めた。 好きな人には今も変わりはないが、久住は一度振られている。 まだもう少し。三十分は眠れるが、目を閉じても多希の姿がちらつき、久住はその幻想を振り払うように、フローリングへ足を着かせた。 十月なのにまだ暑い、なんてよく言っていた気がするのに、雨の日を挟んだら、朝晩はすっかり冷え込むようになった。 朝食は食べない日が多かったが、少しずつ久住は悪い習慣から脱却している。 日々のモチベーションは、通い始めた料理教室で一目惚れをしてしまった「由衣濱先生」だ。 キッチンに立った久住はバターロールをオーブンレンジに放り込み、サラダチキンを賽の目にカットする。 壊滅的なほど不器用だった久住は、多希の指導でどうにか人並み……というには烏滸がましいが。 少しずつ苦手分野を克服している。 昔から細かい作業は不得手だった。 図工や美術の科目は壊滅的だと言っていいほどで、担当の教師からは「わざとやってるの?」と、何故か悪意を持たれるほどには。
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