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近藤は喋りたがりで、トーク力自慢のMRよりは口数が少なく、聞き手寄りの久住は気に入られているようだった。
久住は丸椅子へ座り、近藤と膝を突き合わせた。
「この間の血液検査の結果なんやけどね。どうやったと思う?」
開口一番がそれで、久住は首を傾げる。
が、つい先月受けた健康診断のことを言っているのだとすぐに理解した。
堅物な久住は「いけなかったでしょうか?」と、近藤に聞き返した。
「いやそれがなぁ、綺麗に下がってる。まあ、久住くんの年からしたらまだ高いけど。とりあえず糖尿の薬はなしで経過観察やな。あ、久住くんとこのは出しとく?」
近藤はにやにやしながら言った。
自社であるキサキ製薬の降圧剤を、久住は処方されていたのだ。
「いえ。先生の判断にお任せします」
「久住くん相変わらず真面目やなぁ! 僕が死にそうって言ったから気にしてたの?」
「まあ……はい。そうですね。まだ死にたくないので。料理教室に通い始めたんです」
最初は話のネタにでもなればと思い、通い始めた料理教室。
どうせなら自分の不器用さに溜め息や舌打ちが飛んでこないような……相場が高めのところを選んだ。
そろそろいい年だし、子供のように言い訳に逃げていないで、久住にも家事くらいは何とかしようという自覚はあった。
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