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あまりにも突飛な話題が上がり、久住は失礼にも聞き返してしまった。
久住の態度に、近藤は眉を潜める様子もなく、にこにことまるで悪巧みをするような表情をしている。
近藤の企んでいる意図が分かり、久住は動かない表情筋の下で嫌悪する。
「あそこがいいかなぁ……いつも僕らが忘年会で行ってる割烹。久住くん、フグは好き? 蟹のほうがええかなぁ」
「え、あの……」
仕事の場……しかも久住よりも断然立場が上の近藤に、「ゲイなので無理です」とは口が裂けても言えない。
かといって、対人スキルに乏しい久住がこの場を上手く切り抜けられる弁もない。
可愛い娘を久住に紹介するくらいには、自分のことを信頼してくれているのはありがたいが、こちらは断りたい気持ちでいっぱいだ。
「あ、別に堅苦しく考えなくて大丈夫やで。若い者同士でちょっとお茶するくらいに思ってくれたら。今度また、久住くんに電話するな」
近藤は言いたいことだけ言ってしまうと、仕事があるから、と久住を診察室から追い出した。
「今度また」という方便が、「行けたら行く」くらいの気持ちに消失してくれることを、心の中で願うばかりだった。
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