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……────。
『ほとんどが嫉妬で、ちょっとは下心です。すみません』
多希の脳裏には、心底申し訳無さそうに。
けれど、ほんの少しだけ目元を緩めた男の顔が焼きついている。
あれからちょうど一週間。久住は変わらず生徒として、料理教室に通っている。
──嫉妬と下心、か。
それは多希の都合のいいように、言葉通りに解釈してもいいのだろうか。
「付き合ってほしい」と多希に尻尾を振って迫っていた男は、あの一件以来、何のアクションもなくなった。
知らなかったにせよ、既婚者と付き合っていたなどという汚点は、彼の気持ちに水を差すようなものだったのだろう。
久住を巻き込んでしまったことを後悔している。
「お疲れー。多希くん。あれ、本当にお疲れ?」
「……え、ああ。お疲れさまです」
事務所の鍵をじゃら……と手の内で鳴らした三好が、目の下を指差す。
いつの間にか、多希は同僚達全員を「お疲れさま」と見送った後で、講師室は三好と二人きりだった。
まだ仕事は残っているが、多希はパソコンの電源を落とした。
「すみません。もうこんな時間になってるなんて」
「いや、いいけど……いーや、やっぱりよくないなぁ。今日飲みに行こう」
「え、今からですか?」
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