Lesson.1

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しかしながら、多希のいる業界はやや落ち目だ。 投稿型のレシピサイトが普及したおかげで、手元のスマホに具材の名前を打ち込むだけで、何百ものレシピが無料で出てくる。 毎月それなりの月謝をいただくのだから、それらの便利なツールにはない、差別化して戦える武器が必要なのだ。 事務所を出て、体験希望の生徒が待っている部屋に向かう。 「すみません。お待たせいたしました」 木製の扉をノックすると、「はい」と低い声が返ってくる。 多希が入室するのと同時に、ダークネイビーのスーツを着た男が顔を上げた。 ──う、わ……。 他人の美醜についてとやかく言う三好が、「結構イケメン」と評するだけある。 いや、結構なんて言うのは失礼ではないだろうか。 「多希くん好みの」とからかわれた言葉を思い出し、顔が熱くなった。 ──あの人、人の好みとかピンポイントで当ててくるんだよな。 「あの、何か?」 「え……あ、すみません」 下心を掻き消すように、多希は一度咳払いをした。 意志の強そうな深く黒い瞳に、それを助長させるような少し上がった目尻。 鼻筋と唇は細い線をすっと滑らせたようなシャープな印象。 けれど、貧弱そうには見えないので不思議だ。
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