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「先生、私はどうしてブーバなんですか」
高校生になった私は、保健室で訊ねた。
保健の先生が分厚い本を開く。人の足が二つ描かれていた。よく見ると、片方は人差指より親指のほうが長い。もう片方は、親指より人差指のほうが長かった。
「ブーバは、人差指より親指のほうが長いんです。キキは、親指より人差指のほうが長いんですよ」
私は本を床に叩きつけた。足でぐちゃぐちゃに踏んづけて、ゴミ箱に叩き込んだ。
先生はあっけにとられたように私を見上げている。肩で息をしながら、私は言った。
「私はそんなことを訊いたわけじゃありません。どうして、ブーバとキキを分けなくちゃならないんですかって訊いているんです。なんで、足の指の長さとかいうくだらない違いで、腕時計は着けるなとか、オレンジ色はだめだとか、前髪は下ろせとか、決めつけられなくちゃならないんですか」
先生は目をぱちくりさせた。自分の腕時計に触れて、私は続けた。
「私はキキになりたいです。この生き方が許されないのなら、せめてキキとして、生きていきたいです」
腕時計が時をきざんでいる。
ふるえる私の手を、先生の大きな手が包んだ。私ははっとした。温かかった。
「今までよくがんばりましたね」
救われたような気がした。涙が今にも込み上げそうになる。
だけど、先生は私の腕時計を外して、ゴミ箱に放り込んでしまった。私はあっけにとられた。
ほの暗い保健室で、先生がにこりと笑う。
「病院を紹介しますから、これから少しづつキキらしさを取りのぞいていきましょう。初めは辛いかもしれませんが、じきに慣れます。あなたもきっと、立派なブーバになれますよ」
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