2.失恋 (風磨side)

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2.失恋 (風磨side)

風磨(ふうま)? ねえ、聞いてる?」 「あ、ごめん。なんだっけ?」 「もうっ! 私と小説、どっちが大事なのよ?」 「どっちって……そんなの天秤にかけることじゃないよ。小説書くのは俺の趣味。琴羽(ことは)がメイクとかネイルとかファッションとか、自分磨きに夢中になるのと一緒だよ」 「それはわかってるけど……」  海山風磨(うみやまふうま)は、友人の紹介で知り合った柏木琴羽(かしわぎことは)と一年前から交際していた。読書が趣味で、休日は家でのんびり過ごすのが好きだと言った琴羽とはきっと気が合うだろうと思い、風磨から交際を申し込んだ。風磨は、自分のペースを乱されることを嫌う性格だった。  学生時代は、人知れず小説家を目指したこともあり、様々なジャンルの小説を書き続けてきたが、社会人になってからは趣味として、海山風(うみやま かぜ)のペンネームで小説サイトへの投稿をしていた。仕事以外の殆どの時間を執筆時間に費やしていたが、そのことに琴羽は一定の理解を示してくれ、そんな関係に風磨は居心地の良さを感じていた。 「飲酒が趣味なんて言われたら、絶対付き合ってなかったけどね」と、あの日琴羽は笑った。互いに酒は一滴も呑まない。 「風磨? どっか出掛けようよ」 「ああ、うん。もうちょっと待って」 「もうちょっとって? ……いつまで続ける気?」 「え? どういう意味だよ」  風磨は眉をひそめた。 「……風磨の作品は素敵だと思うけど、そんな人はごまんといる訳だし、小説家として食べていける人なんて、そのうちの一握りなんだよ?」  そう言った琴羽に不快感を覚えた風磨は、思わず心の中で呟いた。  一度読んだだけで何がわかるんだ。 「だから言ってるだろ? これは俺の趣味だよ」 「なんか……風磨ってつまんない」 「……え?」  読書が趣味と言った琴羽が読むのは、美容関係のものが殆どで、風磨の小説を読んだのは短編をたった一度だけだった。付き合って少し経ってから気付いたことは、琴羽は読書を趣味としているのではなく、自分磨きの為の読書をしているだけ、ということだ。  けれど、その甲斐あってか、琴羽の容姿は素晴らしかった。風磨が琴羽に惹かれた理由には、当然それも含まれていた。  それからしばらく経って、風磨は琴羽と別れることになった。  どちらが悪いということではなく、互いが思い描いていた関係に、少しズレがあったということだ。
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