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4.君に会いたい (風磨side)
『君のヒーローになりたい』を公開した日、風磨の元に再び読者の片瀬莉央からメッセージが届いた。
『新作読ませていただきました。良かったです』
その控えめな文面に、風磨は込み上げる笑いを抑えることが出来なかった。
『会えませんか?』
勢いでメッセージを送り返すと、莉央から返信があったのは、ほんの数分後だった。
『夢のようです。是非お会いしたいです』
約束の日、待ち合わせ場所に姿を見せた莉央は、風磨の想像とは全く違った人物だった。
茶色の巻き髪を揺らしヒールをカツカツ鳴らして現れた莉央に、風磨は思わず替え玉を疑ったが、その意図が掴めず、戸惑ったまま近くの店に入った。
運ばれて来た紅茶に口を付けてから、莉央がゆっくりと話し始めた。
ひとつずつタイトルをあげて、あそこのあの部分がどのように良かったなどと、キラキラとした瞳で作品の感想を述べていく。自分でも忘れていたような過去の作品のことまで莉央はよく知っていて驚かされた。そんな莉央に風磨は見とれていた。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、莉央を駅まで送っている途中、湧き上がる感情を抑えることが出来なくなった風磨は思わず聞いていた。
「また会えませんか?」
莉央は一瞬驚いた表情を見せたが、「断る理由がないです」とはにかんだ。
それから数回デートを重ねるうちに、莉央は海山風のファンではなく、海山風である海山風磨に好意を寄せていると感じた。
交際を申し込んでも大丈夫だろうか、と躊躇しているうちに先を越された風磨は、逆に莉央のほうから「好きです」と告白されてしまい、なんと情けない男だと自嘲した。
交際が半年を過ぎた今も莉央とは変わらず作品の話をよくするが、きっかけとなったあの作品については一切触れてこない。
莉央は、あの作品に込めた自分の思いに気付いていたのだろうか。
「ねえ、風磨君? 天気いいし暖かいからどっか出掛けようよ」
ソファで紅茶を啜りながら莉央が言った。
「ああ、うん。もうちょっと待って」
パソコン画面から莉央に視線を移動させ、風磨は応えた。
「無理、待てない! じゃあいいよ。ひとりで出掛けてくるから」
「ええっ!? ちょ、ちょっと待って。すぐに用意するから」
立ち上がった風磨は、バッグを手にした莉央の腕を掴むと再びソファに座らせ、慌てて身支度を整えた。
「ね? 春の風が気持ちいいでしょ?」
「うん、そうだな。こんな日に家に籠ってたら勿体ないな」
木漏れ日を浴びながら公園のベンチに腰掛け、屈託のない笑みを浮かべる莉央の頭を風磨は優しく撫でた。
「思い立ったら即行動」の自由すぎる莉央に、風磨はペースを乱されっぱなしだったが、いつの間にか、そんな莉央に身を委ねてみるのも悪くないな、と思えるようになっていた。
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