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1.出会い
告白されたわけでもないのに胸が熱くなって、デートに誘われたわけでもないのに心が踊る。胸がぎゅっと締め付けられる程切なくなったり、喧嘩したわけでもないのにはらわたが煮えくり返って、振られたわけでもないのに悲しみに打ちひしがれる。
それからまた、優しい言葉に胸がキュンとなる。
片瀬莉央はそんな恋をしていた。けれど、それは叶うことのない切ない恋。
出会いは三ヶ月前だった。
一年程前からネット小説を読むことが趣味のようになっていた莉央は、その日も仕事を終えて帰宅すると、小説を読み漁っていた。決まって恋愛小説だ。
そして、出会ってしまった。
作品に引き込まれて感情移入するということはありがちだが、そこもひっくるめて、作者の感性に惚れたのだ。
それを一般的にはファンというのだが、莉央のそれは違っていた。
海山風に恋愛感情を抱いたのだ。
海山風は彼のペンネームだ。
彼をもっと深く知りたいと思った莉央は、来る日も来る日も彼の作品を読んだ。短編から長編、ジャンルも様々な彼の作品数は二百を優に超えていて、執筆にかなりの年月を費やしていると窺えた。
まるで恋人にでも会いに行くかのように、莉央は毎晩彼の作品に触れ、気付けば海山風沼にどっぷりハマっていた。彼の作品を読み終えるといつも同じ感情が溢れだす。
読めば読むほど、その想いは一層強くなっていった。
やがてその感情を抑えきれなくなった莉央は、彼にメッセージを送った。
『あなたのヒロインになりたいです』
当然、彼からの返信はなかった。
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