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「いつから広瀬先輩と住んでいるの?」
「去年から。広瀬の入団が決まってから住んでる」
「それまでは、一人暮らし?」
窓際から戻ってきた粋は、寿の向かいに座ると、買ってきた珈琲を啜った。
「寮にいた。本当は若手用なんだけど、俺があまりにも食生活に気を遣わなさすぎて、無理矢理入寮させてもらってた。今も、掃除とかはやるけど、飯は広瀬が作ってくれてる」
寿は、料理は得意だ。ニューヨークでも、ほぼ自炊だった。
「……海外に移籍するの?」
「うん。明日会見をする」
「昨日、教えてくれれば良かったのに」
珈琲を飲む粋の手が止まった。
「うん。迷ったけど、言わなかった。話しても結果は変わらないだろう」
「だったら何で、今朝のインタビューで結婚なんて言ったの」
「あれは、俺の夢。夢は口にしなくちゃ叶わないから」
朝と同じように素晴らしい笑顔だった。
「叶うかな?」
時々、不思議なくらい粋は鋭い。
まるで、この先の寿の言葉を知っているような顔で、真っ直ぐに見詰めてくる。
「叶わない。私の心配は、粋がベルギーで一人でやっていけるのかってことだよ。私はね、パリに行くの」
「知ってる。昨日、山崎さんに言われた」
まさか芙季が先手を打っていたとは思わなかった。その上での今朝の発言なのか。
「また、離れちゃうな」
粋の言葉に返事ができなかった。
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