1794人が本棚に入れています
本棚に追加
食べなくちゃ、最後まで話せない。残したら、途中で決心が崩れる。
ハンバーガーを口の中に押し込むと、三回噛んで粋の買ってきたオレンジジュースで飲み込んだ。
ポテトも頬張ると、同じように三回噛んでオレンジジュースで飲み込んだ。
「歯磨きしてくる」
夕方には帰ると言っていた。あと数時間、ちゃんと寿の思いを話さなければならない。
折れないように心を強く持って、最後まで話さないと。
鏡の中の自分に発破を掛けていると、粋がやって来た。
「さすがは高級ホテル! 風呂も綺麗だな。すげー、風呂からも外が見える。これって、盗撮とか大丈夫なのか?」
浴槽の目の前は窓だ。気になるならブラインドも下ろせるが、確か外からは見えないようになっているはずだった。
「裸の一つや二つ、見られても大丈夫だよ」
「マジか! 駄目だろう、見られたら」
「ショーのバックステージでは、パンツ一枚だよ、私」
粋の口が漫画のように口を開いた。黒目を小さくして、開いた口を右手で押さえた。
「戦場だもの。着替えに時間掛けられないし。粋がバックステージに来たら、卒倒するかもね」
「寿の裸を俺の知らない男が見てるってこと……?」
「その通り。わざとではないけど、手が胸に触れることもある。でも、いちいち気にしてられないぐらい、みんな真剣だしピリピリしてるよ」
かなりショックなようだ。確かに、寿も最初は驚いたし、恥ずかしいとも感じた。
でも、周りはショーを成功させるために、神経を集中し感覚を研ぎ澄まし、それぞれの仕事を熟している。見られたくないなど、言っている余裕はなかった。
「見たい? 私の裸」
粋が生唾を飲み込むのが分かった。
最初のコメントを投稿しよう!