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「あの夜は大変だった」
太腿に肘をつき、前屈みになって粋は俯いた。
「告白してさ、部屋に戻ったら、二年のスタメンと三年がいたんだ。寿が高校を卒業するまでは、セックスなんてもっての外、キスも舌を入れたら駄目だって、みんなに言われた」
「意味分かんない。……私の部屋に来たの、結構遅い時間だったよね? 何でみんながいるんだよ」
「広瀬が召集したんだ。寿とやったら青少年なんたらと児童福祉法に違反するから、我慢しろって言われた」
全国大会決勝の二日前だ。それなのに、この人たちはなんて馬鹿な話をしていたのだろう。
「本当に葦沢高校サッカー部は馬鹿ばっかりだ。粋も阿呆だよ。決勝前の大事な時に、いきなり告白してきて、みんなにいいようにネタにされて。その上、馬鹿の話を信じて、ずっと触れるキスしかしないとか、マジであり得ない」
「うん。でも、寿はあの時、まだ十五歳だったし、男と付き合うのも俺が初めてだろ、無理強いは良くないと思って、真摯に耐えた」
粋の顔がやけに誇らしげで腹が立った。
むかつくいて仕方がない。どうして、寿は誰とも付き合った経験がなかったと、粋が断言できるのだろう。
苛つく。胸の中に、さっきからさざ波が立っていた。
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