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「……本当に聞いてくれるの?」
「うん。だから、ちゃんと話して。俺は馬鹿だから、言ってくれないと分からないんだ」
「粋は馬鹿じゃないよ。私の大切な恋人だよ」
涙が溢れそうだった。ずっと話したかった。ずっと粋に聞いてほしかった。
「私ね、モデルになったの。素敵な服を着てランウェイを歩く、モデルになったの」
みんな寿がモデルだと知っているけれど、それを人に報告したことはなかった。猛スピードで何段も抜かして進んだせいで、報告する余裕なんてなかった。本当は一番に、粋に報告したかった。
「何かショーの動画とか、観た? 最近はスチール……ブランドの広告にも出てるんだよ」
「うん。ショーの動画も雑誌の広告もほとんど見てるよ」
苛立ちが小さくなる。さざ波が凪いでいく。
「たまたまモデルで出た学内のコンペを観に来ていたのが芙季さんで、誘われたの。デザインを勉強したくて行ったのに、全然駄目で毎日辛かったけど、芙季さんに出会えて、毎日が変わったの」
粋は黙って聞いていた。
「だいたいの子は、小学生から、遅くても高校生からモデルをやってるの。私みたいな素人がいきなり飛び込んでいい世界ではなかった。たくさんレッスンを受けて、上手くできなくて、大変だったけど、オーディションにも受かって、少しずつ仕事が入るようになったんだ」
粋の指が髪を梳いた。頭を撫でられるのは気持ち良かった。
「イジメもあったんだ。衣装、隠されちゃって。探している間に違う子が着てステージにいるの。さすがに、悔しくて泣いたよ。でも、何とかここまで来れた。芙季さんと二人三脚で、ある程度名前を知ってもらえるところまで来れた」
とうとう涙が溢れた。でも、最後まで言わなくてはいけない。
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