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粋の掌が髪を撫で首筋に触れた。ナイトウェアは完全に脱がされた。露わになった胸の先端に粋のトレーナーが擦れる。
「粋も脱いで」
粋が上半身裸になった。筋肉質な体に、厚い肩に鼓動が早くなる。
粋の唇が耳に触れた。耳朶を食み、耳を舐めた。耳なんて舐めるところではないと認識していた。でも、いざ舐められると、とても気持ちがいいし興奮した。
唇はそのまま首筋にキスを落とした。首筋から胸へと、幾つもキスを落としていく。
胸を愛撫され、腿や腰を撫でられ、どんどんと吐息は熱を帯びた。
ちゃんと決心を伝えられた。
ショーに立てるモデルの賞味期限は短い。あと数年もしたら、オーディションにも受からなくなるだろう。
もっと恩返しがしたかった。
粋とも連絡が取れず、腐り溶けそうだった寿を暗い水の底から引き摺り上げてくれた芙季に、もっともっと見せたかった。
寿自身も、どこまでできるのか、可能性を試したかった。パリに行きたかった。
また離れ離れになる実感はあまりない。
ずっと離れていた。連絡もつかなかった。それが当たり前だったから、今のほうが夢のようだ。
体に感じる粋の重みが幻ではないと、何度も触れては確かめた。
やっと会えた人はベルギーに行く。
やっと会えたのに、寿はパリへ行く。
決心は伝えられたのに、本心は伝えられない。
言ってしまえば、粋の重荷にしかならないから、絶対に言えない。
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