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離れる、離れない、離れたくないない 現在(二十六)
翌日はスチール撮影だった。
寿の帰国が決まった時に、芙季が探してきた仕事だ。
ミドル向けのハイブランド雑誌『COTAN』で、急遽モデルの変更があり、芙季へ連絡があったそうだ。帰国後ならと受けた仕事だった。
「早い時間の迎えで申し訳ないわね」
朝七時きっかりに芙季が迎えに来た。
「御坂粋は? 帰ったの?」
泊まったと思っているらしい。普通の恋人であればそうなのかもしれない。
「夕方に帰った。クラブでミーティングがあったみたい」
「今日の移籍会見の件かもしれないわね。この時期に、ネームバリューも実力もある選手が移籍するってあまりないものね」
そういうものなのだろうか。サッカー選手の移籍がいつ頃だとか、そういうのはよく分からなかった。
「話はできたの?」
「お互い、新しい土地で頑張ろうねって話したよ。結婚の話も、今は考えられないよって話した。諸々、円満解決です。ねえ、出国までは会ってもいいんだよね? デートもしていいの?」
「いいわよ。恋人なんだから」
思い出作りはしてもいいみたいだ。
今更ながらに、写真を消してしまったことを後悔していた。だからその分、二人の写真をたくさん撮りたかった。
「そうだ、言い忘れてた。一応、スキャンダルは解決したし、今日からマンション戻るわよ。この後、チェックアウトするから、荷物まとめちゃいなさい。朝ごはんはどうした? ルームサービス頼もうか」
この豪華な部屋は、粋の住むマンションとはとても近かった。日本橋は遠い。
じわりじわりと粋との距離が離れていくような気がして、嫌だった。でも、ここにいたいとわがままを言えるわけがない。
ルームサービスを頼む芙季の声を聞きながら、少ない荷物をスーツケースにまとめた。
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