離れる、離れない、離れたくないない  現在(二十六)

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 粋から連絡を受けていたようで、広瀬は快く寿を迎えてくれた。 「大変なことになったね」  広瀬の淹れた牛乳入りの珈琲を飲みながら、寿は目を上げた。 「結婚。すげえこと言ったもんだ。あいつの考えは常に斜め上をいきすぎて、読めないことがたまにある」 「広瀬先輩は、御坂……粋の、考えを全部理解していると思ってました」 「そうだね、だいたいは分かる。サッカー関連ならほとんど分かる。でも、私生活は分からないことが多いかな」  静かにブラックコーヒーを啜ると、広瀬が申し訳なさそうに微笑んだ。 「御坂が芹沢と三年も連絡を取れていない事実には、全く気付かなかった。御坂の近くにいる俺が、もっと早く気付いていれば、こんなに時間は掛からなかったかもしれないんだ。申し訳なかったよ」 「いえ、謝らないでください。私が、意地を張っていたのも駄目でした。なるべくしてなったんです」  広瀬はどこまで行っても広瀬だ。他人の気持ちを慮り、その時自分にできる一番のプレーをする。  この人の恋人になる人は、とても幸せだろうと思った。  玄関で、鍵を開ける大きな音がした。 「ただいま! 寿、来てる?」  すごい。小学生男子のようだ。  バタバタと大きな足音を立てて、粋が玄関から駆けてきた。 「おかえり。御坂、まずは手洗いうがいだって、いつも言ってるだろ」  粋は、気まずそうな顔をして洗面所に駆けて行った。  阿呆だ。どう見ても小学生男子とその母だ。広瀬のいないベルギーで、粋は本当に暮らしていけるのか、とても心配になった。
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