離れる、離れない、離れたくないない  現在(二十六)

8/37
前へ
/381ページ
次へ
「寿は何にする?」  箱の中には五種類のケーキが並んでいた。 「何でもいいんだ。粋と広瀬先輩、お好きなのをどうぞ」  粋は広瀬をちらりと見た後、生クリームたっぷりのショートケーキを選んだ。広瀬はダークチョコレートを使ったガトーショコラを選んだ。付属のクリームは粋にあげていた。  残ったのは、紅茶のシフォンケーキと、チーズケーキ、フルーツタルトだ。  寿はシフォンケーキを選んだ。 「いただきます! うまい! マジうまい! 疲れた体に滲みる」 「お前は本当に生クリームが好きだな」  粋が、口の端にクリームを付けて満面の笑みを浮かべた。 「知ってるよ、生クリームマシマシ事件」  きょとんとした顔をして、寿を見た。 「謝ってるのに、川栗先輩のこと許してあげないんでしょう?」 「あれだよ、初めてハットトリックを決めた時のご褒美。クレープの生クリームマシマシ事件」 「ああ! あれはさ、川栗が酷いと思うんだ。だってそうだろう? 楽しみにしていた生クリームを半分も食っちゃうんだぜ」  必死に言い訳する粋を広瀬は笑いながら見ていた。 「粋が甘い物好きって、私は知らなかったよ」  紅茶シフォンを一口頬張った。オレンジピールとホワイトチョコに、アールグレイの茶葉が入っていた。口の中で解けて、程良い甘みが心地良かった。 「男が甘い物好きって格好悪いかなって思って……。寿、あんまり甘い物食べないだろ?」  言われてみればそうかもしれない。生クリームもチョコレートも大好きだが、粋のように熱烈なファンではない。
/381ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1794人が本棚に入れています
本棚に追加