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「本当にさ、まだまだ知らないことばっかりだよ、粋のこと。これも、知らなかった」
バッグから『Lazy』を出して、テーブルに置いた。
「山森梓さんのメイクを担当した方が、今日の仕事でメイクをしてくれたの。その人が発売日前の見本誌持ってて、くれたの」
雑誌を見た粋の顔が輝いた。
「俺もさ、今日、貰ってきたんだよ。寿を驚かせようと思ったんだけど、どう驚いた?」
星のように煌めく瞳で、粋が顔を覗き込んできた。
有り得ない反応に、どう対応するのが正解か、一瞬、見失った。
「あいだをごめんね、俺にも見せてくれるかな?」
広瀬は雑誌を手に取るとペラペラと捲った。無表情で一通り見た後、雑誌を置いて寿を見た。
「御坂はこれを話していなかったんだね?」
「そうですね」
「そして、今日初めて見たと、なるほど。俺の後輩の芹沢にではなく、御坂粋の恋人の寿ちゃんに訊くよ。どう思った?」
「死ね、ですね」
広瀬は立ち上がると、キッチンに自分の食器を下げた。
「御坂。お前は俺の言うことを聞かなかったわけだな。俺は、芹沢に話せと言ったはずだ。出掛けるよ、今夜は帰らないから。身から出た錆だ、自分でなんとかしろ」
広瀬は、またも申し訳なさそうな顔をした。目礼を交わして、部屋を出て行った。
鍵を掛ける金属音が聞こえて、部屋の中は冷たい静寂に包まれていた。
粋だけが、首を傾げていた。
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