離れる、離れない、離れたくないない  現在(二十六)

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 珈琲を啜る濁音を纏った音だけが部屋に響いていた。横目で伺っても、粋は空になった皿を見て黙っている。  この状況を理解しているのだろうか?  なぜ、寿が『死ね』と思っているか、絶対に微塵も理解していないと思った。  寿が立ち上がると、粋の肩が大きく揺れた。やっと顔を寿に向けた。 「……帰るの?」 「ケーキ、悪くなっちゃうから冷蔵庫に入れてくる」  粋は、不安と安堵と戸惑いが綯い交ぜになった顔をしていた。  冷蔵庫に入れて戻ってくるまで、寿をずっと見ていた。 「俺、怒られているんだよね」 「そうだね。何ずっと黙っているんだよ、言い訳でも何でもしろよ。って、思ってたよ、私」  泣きそうな顔になった粋が、残っていた珈琲を飲み干した。 「……いまいち、なんで怒るのか、なんとなくしか分かっていない」 「その『なんとなく』を話してみてよ。ちゃんと聞くから」 「驚かせようと思って、黙っていたからだよね?」  正直、そんなのは限りなくゼロに近いぐらいだった。そんなので、腹を立てるわけがない。 「違うよ。全然、違う」  粋がまた首を傾げた。本当にこの男は阿呆だ。駄目だ。
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