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珈琲を啜る濁音を纏った音だけが部屋に響いていた。横目で伺っても、粋は空になった皿を見て黙っている。
この状況を理解しているのだろうか?
なぜ、寿が『死ね』と思っているか、絶対に微塵も理解していないと思った。
寿が立ち上がると、粋の肩が大きく揺れた。やっと顔を寿に向けた。
「……帰るの?」
「ケーキ、悪くなっちゃうから冷蔵庫に入れてくる」
粋は、不安と安堵と戸惑いが綯い交ぜになった顔をしていた。
冷蔵庫に入れて戻ってくるまで、寿をずっと見ていた。
「俺、怒られているんだよね」
「そうだね。何ずっと黙っているんだよ、言い訳でも何でもしろよ。って、思ってたよ、私」
泣きそうな顔になった粋が、残っていた珈琲を飲み干した。
「……いまいち、なんで怒るのか、なんとなくしか分かっていない」
「その『なんとなく』を話してみてよ。ちゃんと聞くから」
「驚かせようと思って、黙っていたからだよね?」
正直、そんなのは限りなくゼロに近いぐらいだった。そんなので、腹を立てるわけがない。
「違うよ。全然、違う」
粋がまた首を傾げた。本当にこの男は阿呆だ。駄目だ。
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