離れる、離れない、離れたくないない  現在(二十六)

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 もう一冊あった。小学校だ。  小学校の卒業アルバムには文集も挟まれていた。  頬のふっくらした粋は、とても可愛らしかった。小学校の写真も、全部強張った顔で写っていた。  文集を読んでみようと広げた。きっと粋のことだから、サッカー選手になって、海外に行きたいとか、そんな可愛いことを書いているのだろう。  アイボリーのでこぼこした紙質の表紙には、毛筆で『飛躍』と書かれていた。捲っていくと、すぐに粋の作文を見付けられた。  当たりだ。タイトルには、プロサッカー選手になりたいと書かれていた。  子供の頃の夢を叶えられる人は稀有だ。やっぱり、粋はすごい。  文集の後に、原稿用紙が挟まっていた。  文集用の作文の下書きのようだった。没作文だろうか。タイトルは『僕』だった。 『僕は人と少し違います。みんなが笑っていても、なんで笑っているのか分からない時があります。』  寿は幼い粋が書いた作文に釘付けになった。 『みんなが怒っていても、どうして怒っているのか分かりません。分からなさすぎて、傷付けたり余計に怒らせてしまうこともあります。だから僕は、なるべく一人で行動するようにしています。でも、サッカーは僕を裏切りません。頑張った分だけ自分にちゃんと返ってくるサッカーが大好きです。』  この先は、鉛筆でぐちゃぐちゃにされていた。
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