離れる、離れない、離れたくないない  現在(二十六)

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「いって!」  ドアは何かにぶつかり、直角にしか開かなかった。裏側を覗くと、しゃがみ込んでいる粋が、肩を擦っていた。 「……そこで何してるの」 「出てくるの待ってた」 「何やってんだよ。風邪引くよ? まだ、Jリーグの試合、残ってるんでしょう? そんなので出れなくなったらどうするの」  差し出した手を粋が握った。粋の指先は氷みたいに冷たかった。 「めちゃ冷えてんじゃん。もう本当にバカなんだから。リビングにいれば良かったのに」 「……ごめん」  本当に、サッカー以外は下手くそすぎて困る。  寿は冷たい指先を包むようにして握った。  冷えた指も抱える思いも、少しでも温かくなればいいと思った。 「来て、これを燃やすから」  ミサンガを見せると、粋の手を引いてキッチンに向かった。 「え! それ、駄目だよ。燃やすって何だよ。絶対に駄目だ」 「マジでうるせえ。いい、色々上手くいかないのは、粋がこれをちゃんと処分してないからだよ。分かる?」  粋が仏頂面で寿を見ている。この期に及んで、こんな顔ができるなんて、その勇気は褒めてやってもいい。 「これ切れたの、いつか知ってる? もう四年も前なんだよ。その間、後生大事に持っていたわけでしょう、どんな神経してるんだよ」 「……だってさ、俺があげたものを寿がずっと身に付けていたわけだろ? それを捨てるなんてそんなのできないよ」 「ミサンガっていうのは、願掛けをして身に付けるんだよ。で切れたらすぐに処分するの。そうしないと願いは叶わないの。切れたものを持ち続けたら、駄目なんだよ」  粋は知らなかったようだ。黒目が小さくなっていた。 「ライターある? あと、ステンレスかガラスのボール」  粋はシンクの下から、琺瑯のボールとチャッカマンを出した。寿は、ボールの中にミサンガを入れた。 「粋が火を付けて」  一瞬、戸惑いを見せながら、粋はミサンガに火をつけた。  ミサンガはなかなか燃えなかった。  静かなキッチンに、チャッカマンのガスと点火の音が響いた。やっと火がついて、暗いキッチンにオレンジの火が灯った。  炎をあげるミサンガをしばらく二人で見ていた。
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