離れる、離れない、離れたくないない  現在(二十六)

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「……泣いたの?」  目を上げると、粋が見ていた。さっきまで炎を見ていたからか、目がチカチカする。そのせいで、表情は見えなかったが、声色は不安そうだった。 「なんでそう思うの?」 「睫毛が濡れているから」  人の心の機微には気付けないのに、こういうところは目敏い。だから、駄目だ、どうしても惹かれてしまう。愛されているのだと多幸感に包まれる。  答えないでいたら、指を絡められた。冷たかった指先は、ほんのりと体温を戻しつつあった。 「……なんて、願掛けをしたの?」  ミサンガが燃え尽きた頃、粋が掠れる声で呟いた。 「秘密。教えない」  伏し目で寿を見ている。この眼差しといい、声といい、本当に外見はパーフェクトだ。このまま見詰められ続けたら、寿からキスをしてしまいそうだった。 「さ、来て。私ね、分かったの。粋とはもっと会話をしなくちゃいけないんだよ」  煩悩を振り落とすと、指を絡めた粋の手を引いて、部屋に戻った。
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