離れる、離れない、離れたくないない  現在(二十六)

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「粋! 風邪引くよ!」  つい声を荒げた。  髪からは水滴を垂らして、トランクス一枚のあられもない格好、いや、晩秋に似つかわしくない格好だったからだ。  起き上がった寿は、粋が肩に掛けていたタオルを取ると、粋の髪を拭いた。 「ちゃんと拭かないと。本当に風邪引いちゃうよ」  油断した。一瞬の隙に、粋が寿の胸に顔を埋めた。 「すげえ柔らかい」 「ちょっと、粋、待って」  「待たない。電気消してくる」  部屋の電気を消すと、小さな間接照明のスイッチを入れた。 「あ、月だ。可愛い、お月様なんだ」  白く丸い照明は、灯りを付けると、フルムーンのように輝きだした。  見入っていると、後ろから抱き締められた。首筋に粋の濡れた髪が触れて冷たかった。それに気付いたのか、粋の唇が首筋を撫でた。  これは、やっぱりそういうことだ。 「粋、待って。確認させて。ちょっとこれは性急すぎない?」  振り向くと、阿呆の粋は不思議そうな顔をしていた。 「さっき言ったでしょう、私はきっと粋の自由を奪うよ」  粋が首を傾げた。 「よく分からないんだけど」  やっぱり。どう説明すればいいのか考え始める前に、粋が言葉を繋いだ。 「寿のいない現実のほうが今より自由だと言われても、俺にとっては、不自由だよ」  言っている意味をちゃんと理解しているのだろうか。今の言葉は、寿がいるほうがいいと、そう聞こえた。 「粋は、私以外の女の人を触っちゃいけないんだよ? 私以外の女に、触られるのも駄目なんだよ」 「それはちゃんと分かってるよ。あ! そっか! 今の俺に何が足りないのか、すげえ理解した」  目の前の男は、パンツ一丁のくせに、真面目な顔をした。
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