離れる、離れない、離れたくないない  現在(二十六)

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「さっきの、もう一回言って」 「ん? さっき?」 「好きではなくて……その、別の言葉で言ってくれたでしょう、それ、もう一回言って」  この説明で粋に伝わったか心配だった。見当違いのことを言われたらどうしようかと思ったが、ちゃんと伝わっていた。 「いいよ。何回でも言ってあげる。愛してるよ、寿」  粋の唇はいやらしい。厚みもエロいし形もエロい。その唇から赤い舌を覗かせてキスしてくるのもいやらしい。  舌を絡めている間に、粋が全部入ってきた。裂けそうな痛みは、擦れる痛みに変わった。  でも、痛みはもうどうでも良かった。  嬉しかった。胸がいっぱいだった。愛する人に抱かれると、こんなに幸せなのか。 「やっぱやめよう、痛いだろ。抜くよ」 「違う、これ、痛いからじゃないの」  意図せず涙が溢れていた。粋の指が涙を掬った。 「私も愛してる。大好き。もう離れない」  また唇が重なり、粋がゆっくりと動きだした。  前戯は気持ち良かったけれど、今は気持ち良さよりも痛みが勝っていた。でも、動きが速くなるにつれ、痛みも薄れて、快楽に変わっていた。  寿の口から吐息が漏れた。  粋の呼吸がさらに荒くなった。ピッチでボールを追いかけている時みたいだ。落ちてくる汗でさえ愛おしい。  小さな呻き声の後、粋の体が大きく揺れた。  自分の体の中で粋が果てた事実が、妙に誇らしかった。  良かった。できた。ちゃんと、最後まで。  目を閉じると体がふわふわした。ふわふわした体は、そのまま、意識の裏に落ちていった。
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