ミシェル 寿・現在

1/6

1795人が本棚に入れています
本棚に追加
/381ページ

ミシェル 寿・現在

 アスリートはみんな、あんなにタフなのだろうか。  普通の恋人たちは、あんなに何度もするものなのか。  正直、めちゃくちゃ疲れたし、眠い。入り口も中もヒリヒリする。初めてだったのに、あんなに何回もして良かったのだろうか。 「どうしたの? 目の下にクマができてるわよ。今日はデザイナーと打ち合わせなんだから、しっかり隠しなさい」  事務所に到着した途端、芙季がカバー力の高いコンシーラーを投げてよこした。  アテーナーは虎ノ門にあった。初めて訪れたが、虎ノ門は名前だけの、古ぼけたビルの五階だった。  皆忙しくしていて、事務所にはアルバイトの事務の女の子しかいなかった。 「御坂粋のところに泊まったんでしょう」  事務の女の子が席を立ったのを見計らって、芙季が声を潜めた。 「別に泊まるのが悪いとは言わないわ。でも、御坂だって今日は練習でしょう。翌日に影響が残る付き合いは感心できないわね」  寿の前に来ると、芙季は肌をチェックした。 「来週、一度パリに行くわよ。エージェントととの面談と、アパートメントの下見をしないと。全く、吹き出物までできてる。今日はわざわざミシェルが来るっていうのに……」  韓国人のミシェル・パークは、ニューヨークコレクションの頃から寿を贔屓にしてくれていた。今の寿があるのは、ミシェルのお陰だと言っても過言はなかった。  たまたま韓国に帰国していたミシェルが、寿に会いに日本に来たという。ミシェルは、一月に念願のオートクチュールデビューを果たす。寿はそのコレクションに立つ予定だった。 「そろそろ時間よ。ほら、行くわよ」  生あくびを噛み殺す寿の尻を叩くと、芙季は慌ただしく事務所から出て行った。  急いで後を追いながら、これから一度に一回までにしようと固く心に誓った。どんなに可愛い顔で懇願されても、どんなに色っぽい瞳で見られても、絶対に流されないようにしよう。  そう決めたものの、自信はなかった。
/381ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1795人が本棚に入れています
本棚に追加