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ミシェル 寿・現在
アスリートはみんな、あんなにタフなのだろうか。
普通の恋人たちは、あんなに何度もするものなのか。
正直、めちゃくちゃ疲れたし、眠い。入り口も中もヒリヒリする。初めてだったのに、あんなに何回もして良かったのだろうか。
「どうしたの? 目の下にクマができてるわよ。今日はデザイナーと打ち合わせなんだから、しっかり隠しなさい」
事務所に到着した途端、芙季がカバー力の高いコンシーラーを投げてよこした。
アテーナーは虎ノ門にあった。初めて訪れたが、虎ノ門は名前だけの、古ぼけたビルの五階だった。
皆忙しくしていて、事務所にはアルバイトの事務の女の子しかいなかった。
「御坂粋のところに泊まったんでしょう」
事務の女の子が席を立ったのを見計らって、芙季が声を潜めた。
「別に泊まるのが悪いとは言わないわ。でも、御坂だって今日は練習でしょう。翌日に影響が残る付き合いは感心できないわね」
寿の前に来ると、芙季は肌をチェックした。
「来週、一度パリに行くわよ。エージェントととの面談と、アパートメントの下見をしないと。全く、吹き出物までできてる。今日はわざわざミシェルが来るっていうのに……」
韓国人のミシェル・パークは、ニューヨークコレクションの頃から寿を贔屓にしてくれていた。今の寿があるのは、ミシェルのお陰だと言っても過言はなかった。
たまたま韓国に帰国していたミシェルが、寿に会いに日本に来たという。ミシェルは、一月に念願のオートクチュールデビューを果たす。寿はそのコレクションに立つ予定だった。
「そろそろ時間よ。ほら、行くわよ」
生あくびを噛み殺す寿の尻を叩くと、芙季は慌ただしく事務所から出て行った。
急いで後を追いながら、これから一度に一回までにしようと固く心に誓った。どんなに可愛い顔で懇願されても、どんなに色っぽい瞳で見られても、絶対に流されないようにしよう。
そう決めたものの、自信はなかった。
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