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「"最低、ミシェル。モデルの体に故意に触れるなんて、あり得ない。いいよ、あんたがそのつもりなら、一月のコレクションには出ない"」
寿は胸にあるミシェルの手を勢いよく払うと、服とブラジャーを手にした。
「"やだあ、冗談じゃないの。寿はすぐに本気になるんだから。もう、冗談よ、冗談"」
慌てて取り繕うミシェルを睨んだ。ミシェルがバイだと、寿も噂で耳にした。だから、わりと気を付けていたつもりだったが、まさか故意に触れてくるとは思わなかった。
「"悪ふざけが過ぎたわ。本当にごめんなさい。嫉妬したのよ、ミスターミサカに。あなたには永遠に清らかでいてほしかった"」
何が清らかだ。寿はミシェルを睨む眼差しを緩めなかった。
モデルはある意味使い捨てだ。甘い言葉でモデルを食い物にしようとするデザイナーもいる。
「"二度目はないから。次に下心を持って触れてきたら、絶対に許さない"」
肩を落としたミシェルを横目に、寿はもう一度鏡の前に立った。
「"分かったなら早く着せて"」
さすがオートクチュールデビューを飾るデザイナーだ。いざ着せるとなれば、目は真剣だった。寝室にあった針と糸で、寿の体に合わせていく。
「"どう? あなたがこれで、プティ・バレを歩く姿を想像しただけで、興奮しちゃうわ"」
サテンかと思ったが、シルクのようだ。所々に、脆く儚げなレースがあしらわれていた。
「"さあ、フキに見せてあげて"」
悔しいけれど、そのドレスは寿にピッタリだった。こんなセクハラデザイナーの服を褒めるのはムカつくから、口には出さなかった。
ミシェルがドアを開いた。素足の寿が一歩踏み出すと、芙季、ミシェルのマネージャー、同行したクチュリエたちから声が上がった。
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