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あり得ない初めまして 寿・現在
一週間経っても、粋からは連絡がなかった。
こういう時、つい連絡が来るまで待とうとする悪い癖が顔を覗かせた。待ってみてもいいことがないのは分かっている。
今は、夕方五時だ。今連絡を取れば、今夜は一緒に過ごせるかもしれない。
明日は休みだ。もし、粋も休みなら、目一杯、甘えよう。
実は、もう、会えるつもりで横浜まで来てしまった。
改札を出てから、寿は粋に電話を架けた。
一回、二回、三回。なかなか出ない。
四回、五回目のコールで粋が出た。
「あ……もしもし、寿? どうしたの?」
少し焦った様子に聞こえた。
「えっと、久しぶり……今、大丈夫?」
「ごめん、大丈夫じゃない。また架ける」
粋から、通話を切られた。
切る直前に聞こえたのは、女の声だった。
『御坂さん、始まりますよ』
何が始まるのだろう。
胸がざわめいた。
いったい、この一週間、粋は何をしていたのだろう。
なんで、粋はLINEの一つも送ってこなかったのだろう。
思い切って電話をしたのに、「どうしたの?」って、ちょっと酷い。
例えば、「どうした?」は、何かあったのかと話を聞こうとする姿勢が見える。そんな気がした。
でも、「どうしたの?」は、「何か用?」とイコールだと思った。用がないなら切るよと、突き放す意識が裏側に隠れている。現に、粋は通話を切った。
こういう時は、広瀬だ。
寿は広瀬に電話を架けた。広瀬はすぐに出た。
「もしもし? 芹沢か? どうした?」
粋もこういう風にでてくれれば良かった。
「すみません、急に。訊きたいことがあって。御坂は今、そばにいますか?」
「御坂? 御坂は今日は料理教室だよ」
料理教室。
意外な単語に、次の句を繋げられなかった。
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